毎年夏になると、全国各地で花火大会の中止や縮小のニュースが流れます。「諸般の事情により中止」という曖昧な告知の裏には、資金不足・警備費の高騰・人手不足・近隣からのクレームなど、複数の深刻な要因が絡み合っています。
2025年7月時点で、すでに全国28会場以上の花火大会が中止を決定していたというデータもあり、コロナ禍明けで花火大会が復活傾向にあった中でも、開催を断念するケースは後を絶ちません。2026年3月には、1978年から続いていた広島県呉市の「呉海上花火大会」が物価高騰などを理由に終了を決定するなど、長い歴史を持つ大会でさえ存続が危ぶまれる時代に入っています。
花火大会の中止には、天候のような一時的な理由だけでなく、日本社会が抱える構造的な問題が色濃く反映されています。ここからは、花火大会が中止・縮小に追い込まれる主な理由と、それに対する対策の動きを詳しく見ていきます。
花火大会の中止・縮小が増えている背景
花火大会の中止は、決して一つの原因で起こるものではありません。資金面・人員面・地域事情など、さまざまな要因が複雑に重なり合った結果として生じています。まずは全体像をつかむために、主な中止理由を整理します。
| 中止・縮小の主な理由 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 資金不足 | 協賛金の減少、自治体補助金のカット、運営費全体の高騰 |
| 警備費の高騰 | 警備員の人件費上昇、必要人数の増加、警備会社の見積もり増大 |
| 人手不足 | 警備員・運営スタッフ・ボランティアの確保困難 |
| 花火そのもののコスト増 | 火薬の原材料費・輸送費の上昇(円安・国際情勢の影響) |
| 近隣住民からのクレーム | 騒音・交通渋滞・ゴミ問題・マナー違反への苦情 |
| 天候・自然災害 | 台風・大雨・河川増水による安全確保の困難 |
| 会場・インフラの問題 | 打ち上げ場所の確保困難、老朽化した設備の更新費用 |
2023年に全国で中止を決めた花火大会は49件にのぼり、その約7割は人口5万人以下の市町村で開催されていた大会だったとされています。人口規模が小さい地域ほど、資金・人員の両面で花火大会を維持する難しさが際立っています。
【理由①】運営資金の不足と費用の高騰
花火大会の中止理由として最も多く挙げられるのが、運営資金の問題です。花火大会には打ち上げ花火の購入費だけでなく、会場設営・警備・トイレ設置・ゴミ処理・広報など多岐にわたる費用がかかり、大規模な大会では1回の開催に億単位の予算が必要になります。
花火大会にかかる費用の内訳
花火大会の費用構造について、日本三大花火大会の一つである「長岡まつり大花火大会」(新潟県)の2025年の予算を例に見てみます。
| 費目 | 金額(概算) |
|---|---|
| 花火打ち上げ費 | 約3億円 |
| 会場設営費 | 約4.5億円 |
| 警備・誘導・安全・交通費 | 約4.6億円 |
| 人件費 | 約1億円 |
| 合計 | 約18億円 |
長岡花火は国内最大規模の事例ですが、注目すべきは全体に占める花火打ち上げ費の割合が約16%にとどまり、警備や会場設営の費用がその数倍に達しているという点です。全国の花火大会を平均すると、開催経費のうち花火打ち上げ費用は約3割で、警備費が約6割を占めるとも言われています。
コロナ前後で急激に膨らんだ運営コスト
松江市の「松江水郷祭」の事例は、コスト構造の変化をわかりやすく示しています。主催団体がコロナ禍前と比較した試算を行ったところ、総費用が3,000万円も増加していたことが判明しました。
| 費目 | コロナ禍前比 |
|---|---|
| 花火打ち上げ関連(火薬・包装資材・運搬費) | 約1.5倍 |
| 環境整備(仮設トイレ・ゴミ処理) | 約1.8倍 |
| 警備費用 | 約2.6倍 |
三重県津市の「久居花火大会」でも、仮設トイレや音響設備などの会場設営費が5年前より約280万円高い約670万円に跳ね上がっています。警備員を5年前の半数に減らしたにもかかわらず、人件費の高騰で費用は大幅な削減には至りませんでした。
花火玉の価格高騰も深刻
花火そのもののコストも上がっています。花火の打ち上げに使われる火薬の原材料は輸入品が多く、円安や国際情勢(ウクライナ情勢など)の影響をまともに受けます。ある花火業者は、2024年に火薬が3割値上がりしたと明かしており、花火の単価を上げざるを得ない状況になっています。
秋田県の米代川花火大会(旧・鷹巣花火大会)が中止となった際にも、花火の値上がりなどで運営費が約1.5倍に膨らんだことが理由として挙げられました。
協賛金・補助金の減少が追い打ち
費用が上がる一方で、収入面では協賛金や自治体からの補助金が減少傾向にあります。神奈川県逗子市では、財政難を理由に市が逗子海岸花火大会への補助金約1,800万円を全額カットし、一時は開催が危ぶまれました。岡山県玉野市でも市からの補助金が大幅に減少し、花火大会の中止に至っています。
千葉県御宿町の「おんじゅく花火大会」では、コロナ禍から地域経済が回復しきれず、協賛企業や住民からの寄付が十分に集まらなかったことが中止の要因となりました。
【理由②】警備員の確保困難と安全対策の強化
近年の花火大会の中止理由として、資金不足と並んで深刻なのが警備員の確保困難です。これは単にお金をかければ解決する問題ではなく、日本社会全体の労働力不足が花火大会という現場に集約されています。
警備費の高騰は「二重苦」
花火大会における警備の問題は、「費用の高騰」と「人員の確保困難」という二つの要素が同時に進行しています。
コロナ禍が明けた後、有名花火大会に見物客が殺到するケースが増え、群衆雪崩の防止や通行誘導のために、それまでの2倍以上の警備スタッフを配置しなければならなくなりました。逗子市の花火大会では、従来900万円ほどだった警備費用の見積もりが1,300万円にまで増加し、関係者が対応に苦慮する事態になっています。
地方ほど深刻な人員確保の問題
千葉県鴨川市の「納涼花火鴨川大会」は、安全対策のための警備員を確保できず2023年の中止を余儀なくされました。地方では、地元だけで必要な人数の警備員を集められないケースが少なくなく、他県からの派遣となればさらに交通費や宿泊費が上乗せされます。
都市部でも状況は楽ではありません。100万人以上の観客を動員する都内のある花火大会では、主催者側が警備会社に人員増加を要請しても「確保ができない」と断られてしまうケースが起きています。大人数が集まるイベントだけに、警備費の節約は安全面から許されず、運営を圧迫し続けています。
【理由③】天候・自然災害による中止
花火大会の中止理由として一般に最もイメージしやすいのが、悪天候です。雨や強風が直接的な原因になるだけでなく、河川の増水や地盤への影響なども重要な判断材料となります。
河川敷での開催特有のリスク
多くの花火大会は河川敷や海岸沿いで開催されますが、大雨の影響は打ち上げ当日だけの問題ではありません。2025年に中止となった静岡市の「安倍川花火大会」では、連日の大雨による河川増水で前日までの準備ができないことに加え、翌日以降に延期しても水位が下がらないため、打ち上げ台の設置自体が不可能と判断されました。
安倍川花火大会の公式発表では、秋冬への延期についても「枯草への飛び火による火災リスク」「河川敷での鑑賞は寒く、寄付や観客が見込めない」といった理由で見送られています。天候による中止は、単に日程をずらせば済むという話ではないのです。
「中止にするにも費用がかかる」という現実
見落とされがちな点として、花火大会を中止する場合でも費用が発生することがあります。すでに発注済みの花火玉は返品できないことがほとんどで、廃棄処理をする場合は打ち上げるよりコストがかかるケースすらあります。有料観覧席の返金対応、準備段階で投入した警備や設営の費用なども主催者の負担となるため、中止という判断自体が大きなリスクを伴います。
【理由④】近隣住民からのクレーム
花火大会を取り巻く環境が変化する中で、近隣住民からのクレームが中止や規模縮小の一因になるケースも増えています。
花火そのものより「観客のマナー」への苦情が多い
住民からの苦情の多くは、花火の音そのものよりも、来場者の行動に起因するものです。主な苦情内容をまとめると以下のようになります。
- 観客が深夜まで騒ぎ続ける
- 路上駐車や違法駐輪で生活道路がふさがれる
- ゴミの不法投棄(自宅前やゴミ集積所への放置)
- 住宅の敷地に無断で立ち入る
- 交通規制による日常生活への支障
- 酔客によるトラブルや治安の悪化
ある調査では、花火に関する迷惑やトラブルの経験がある人は全体の85%にのぼり、最も多かった苦情は「夜の騒音」で64.6%を占めました。花火の音だけでなく、観客が深夜まではしゃぐ声や、花火が見える場所でのベランダパーティーによる騒音なども含まれています。
都市部での住宅密集化も背景に
以前から花火大会が行われていた会場の周囲に、高層マンションや住宅が増えたことで、騒音や交通問題に対する苦情が増加している地域もあります。花火大会は元々その土地の風物詩として根付いてきたものですが、住民構成の変化によって地域の合意形成が難しくなっているのが現状です。
滋賀県のびわ湖大花火大会では、地元住民から混雑やゴミ問題を理由とした反対決議が行われたこともあり、花火大会の開催をめぐる住民感情は地域によって大きく異なります。
【理由⑤】花火業界そのものの構造問題
花火大会の存続を左右するもう一つの要因として、花火師の減少と業界の高齢化があります。
日本の花火製造業は小規模・世襲型の事業者が多く、コロナ禍で花火大会が相次いで中止となった2020〜2022年の間に、経営が立ち行かなくなった花火業者が少なからず廃業しています。花火師の仕事は季節性が高く、夏場に集中する需要に合わせた人員確保が困難になりつつあります。
花火の製造には専門的な知識と技術が不可欠であり、一度失われた技術を短期間で回復させることは容易ではありません。花火大会の開催以前に、花火を打ち上げる担い手がいなくなるというリスクが静かに広がっています。
中止の危機に立ち向かう取り組み
厳しい状況が続く一方で、花火大会の存続に向けた新たな取り組みも各地で始まっています。
クラウドファンディングで資金を調達
近年、花火大会の運営費をクラウドファンディングで集める動きが全国に広がっています。
青森市の「浅虫温泉花火大会」は、費用高騰による財務状況の悪化で2025年の開催が一度中止となりましたが、地元有志が目標500万円でクラウドファンディングを立ち上げ、最終的に約566万円を集めて復活にこぎつけました。鎌倉花火大会も、市からの補助金が打ち切られた後にクラウドファンディングで1,000万円以上の資金を集め、継続開催を実現しています。
島根県松江市の「松江水郷祭」では、クラウドファンディングとガバメントクラウドファンディング(ふるさと納税を活用した仕組み)の両方を実施し、市外の支援者には税額控除や返礼品をアピールすることで寄付を集めています。
有料観覧席の拡大と「二極化」戦略
運営資金を確保するため、有料観覧席を導入する花火大会は年々増加しています。帝国データバンクの調査によると、2025年は全国主要106大会のうち約8割にあたる83大会で有料席を導入しており、前年から3大会の純増で過去最多を記録しました。
有料席のうち、一般席の平均価格は5,227円(前年比+1.8%)とゆるやかな上昇にとどまる一方、プレミアム席の平均価格は36,193円(前年比+7.2%)と、高額帯での値上げが目立ちます。1席5万円以上のプレミアム席を設置する大会も増え、一般席とプレミアム席の価格差は6.92倍と2019年以降で最大になりました。
ただし、有料化の拡大に対しては、地元住民から「地元なのに花火が見られなくなった」「税金を使っているのに不公平だ」という不満の声も上がっています。花火大会の体験価値に見合う価格設定をどう実現するかが、引き続き課題となっています。
開催形態の見直し
従来の花火大会の形を大きく変えることで、存続を模索する地域もあります。岐阜県笠松町では、約150年の歴史がある「笠松川まつり」の花火大会が費用高騰で中止に追い込まれた後、花火の代わりにシャボン玉と光の演出を使った「ナイトバブルフェス」として生まれ変わりました。警備の負担が大幅に軽減され、開催費用を従来の約4分の1に抑えることに成功しています。
また、公式サイトでのライブ配信やSNSを活用した情報発信に力を入れる大会も増えており、会場に来られない人にも花火を届けるデジタルコンテンツの取り組みが進んでいます。
花火大会の中止を防ぐためにできること
花火大会は「タダで見られる夏のイベント」というイメージが根強いですが、その裏側には莫大な費用と多くの人の努力が不可欠です。観客の立場からも、花火大会を守るためにできることがあります。
- 有料観覧席を購入することで、運営費の支援につながる
- クラウドファンディングやふるさと納税で直接的に資金面を応援する
- 会場周辺でのマナーを守り、ゴミの持ち帰りや路上駐車の回避を徹底する
- 地域の花火大会を支える協賛企業やスポンサーの情報に関心を持つ
- ボランティアとして運営に参加する
花火大会を「当たり前にあるもの」ではなく、地域の人々が苦労しながら守り続けてきた文化行事として捉え直すことが、持続可能な花火大会のための第一歩になるのではないでしょうか。
まとめ
花火大会が中止・縮小する理由は一つではなく、資金不足・警備費の高騰・人手不足・近隣からのクレーム・天候リスク・花火業界の構造問題など、複数の要因が絡み合っています。とりわけ人口規模が小さい地方では、これらの問題が同時に押し寄せるため、一度中止となった大会の復活は容易ではありません。
一方で、クラウドファンディングの活用や有料席の導入、開催形態の工夫など、新しい取り組みによって存続の道を切り開いている事例も生まれています。花火大会は単なる娯楽ではなく、地域の経済や文化、人々のつながりを支える重要な行事です。花火が上がる夜空の裏側にある事情を知ったうえで、それぞれの立場からできる応援を考えてみることが大切です。